2025/06/09
物流業界では人手不足が深刻な経営課題となっています。
トラックドライバーや倉庫内スタッフの確保が難しくなる一方で、EC市場の拡大に伴い宅配便の取扱個数は増加の一途をたどっています。
この需要と供給のアンバランスが、物流業界に大きな影響を与えています。
現在、物流業界においてトラックドライバーの人手不足が深刻化しています。
厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和7年1月分)参考統計表」によると、ドライバーの有効求人倍率は2.76%で、全産業の有効求人倍率1.20%を大きく上回っています。
この数値は求職者1人に対して2.76件の求人があることを示しており、ドライバー不足が顕著であることがわかります。
参考:厚生労働省|一般職業紹介状況(令和7年1月分)
さらに「物流2024年問題」として、働き方改革関連法によるドライバーの労働時間規制の適用により、財務省の広報誌「ファイナンス」では、何らかの対策を講じなければ2030年には輸送力が34%ほど不足するとの見通しが出ています。
参考:財務省|ファイナンス(「物流2024年問題」の現状と課題)
物流業界の人手不足は、トラックドライバーだけの問題ではありません。倉庫内作業を行うスタッフも人手不足が続いています。
人口の多いベッドタウンなどには多くの倉庫が建設されているため、通常であれば人材確保が容易なはずですが、物流施設の集中によって人材の取り合いが発生しています。
さらに、スタッフ募集単価は全体的に上昇傾向にあるため、従来どおりの水準では十分な人材確保ができなくなっています。
特に、倉庫内作業の経験者や、フォークリフト作業者など特殊技能を必要とする人材、また倉庫内作業に従事できる体力のある人材の採用は困難な状況となっています。
国土交通省が公表した2023年度の宅配便取扱個数は50億733万個で、対前年度比0.3%の増加となっています。
宅配便の取扱い件数は年々増加傾向にあり、ここ数年は一貫して伸び続けています。
参考:国道交通省|令和5年度 宅配便・メール便取扱実績について
参考:国土交通省|令和5年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法をもとに作成
特に、2020年は前年比11.9%増と大幅に増加しました。
この背景には、コロナ禍を経てのEC市場の拡大があります。
経済産業省の調査によると、2021年の消費者向けEC市場の規模は20.7兆円に達し、コロナ禍前の2019年の19.3兆円を超えています。
このような物流量の拡大に対して人手が足りていないことが、物流業界における人手不足をさらに深刻化させています。
物流業界において人手不足が深刻化している背景には、複合的な要因があります。
少子高齢化に伴う労働人口の減少、労働条件の問題、肉体労働としての特性、そして業界に対するイメージの問題など、さまざまな要素が絡み合っています。
以降では、それぞれの原因について解説します。
日本社会全体で出生率が低迷して人口が減少し、少子高齢化が進行しています。
これに伴い、就業者と失業者を含む15~64歳の「働ける人の数」を示す生産年齢人口も減少しています。
政府の試算では、2065年の生産年齢人口は約4,500万人で、2020年と比べて約2,900万人減少する見通しです。
また、2065年には65歳以上の老年人口が約4割、生産年齢人口が約5割となり、少子高齢化がさらに進むと予想されています。
ドライバーの年齢構成を見てみると、40~49歳が32.1%、50~59 歳が32.3%で全体の60%を超え、次いで60歳以上が15.1%となっており、20歳未満は0.3%と、他業界に比べて年齢層が高い傾向にあります。
若年層の参入が進まなければ、ドライバーの高齢化はさらに加速し、人手不足も深刻化していくでしょう。
物流業界において、特にトラックドライバーは長時間労働が常態化している一方で、給与水準は全産業平均を下回っています。
以下の表は、厚生労働省がまとめた統計の数字を抜粋したものですが、2023年のトラックドライバーの年間労働時間は全産業平均より約400時間も長い一方で、年間所得は全産業平均よりも約22~69万円少ない状況です。
項目 |
トラックドライバー |
全産業平均 |
差異 |
年間労働時間 |
2,508~2,544時間 |
2,136時間 |
約372~408時間多い |
年間所得 |
438~485万円 |
507万円 |
約22~69万円少ない |
このような労働時間の長さと給与のアンバランスが、新規就労者の確保や定着を難しくしています。
また、この問題の背景には物流業界における下請け構造や、ドライバーに発生しがちな荷待ち時間の存在があり、業界全体の課題となっています。
参考:厚生労働省|トラック運転者の仕事を知ってみよう 統計からみる運転者の仕事
荷物の積み下ろしや倉庫内を歩き回ってのピッキング、荷物の運搬など、物流の現場は力仕事も多く、体力面の負担が大きいのが実情です。
ある程度の体力を必要とする業務のため、体力に自信がない人や、あまり力のない人にとっては厳しい仕事であり、その分、働き手が限定されてしまうという実態があります。
特にドライバー業界は、全職種の平均に比べて女性の割合が少ないという統計結果もあります。
こちらも厚生労働省の調査によるもので2021年の数字になりますが、就業者に占める女性の割合は、全産業では44.7%であるのに対し、道路貨物運送業は20.1%とその半分以下となっています。
このような状況から、公益社団法人全日本トラック協会などが、女性や高齢者が働きやすい職場づくりの必要性を提唱しています。
参考:厚生労働省|トラック運転者の仕事を知ってみよう 統計からみる運転者の仕事
物流業界には「きつい」「つらい」といった先入観があり、就職・転職を敬遠される傾向があります。
具体的には「長時間労働で休みも取りづらく、肉体的にきつそう」「重い荷物を運ぶため、肩や腰への負担が大きい」「交通事故などの危険があって怖い」「働く環境がきれいとはいえない」「男性社会で、女性の労働者は働きにくそう」といったネガティブなイメージが存在します。
これらのイメージは、ワークライフバランスを重視する若年層にとって魅力的な職場環境には映らず、人材確保の障壁となっています。
国土交通省が主体となって「ホワイト物流」推進運動を進めるなど、業界イメージの改善に向けた取り組みが始まっていますが、既成概念を変えるにはさらなる努力が必要です。
参考:「ホワイト物流」推進運動ポータルサイト
物流業界が直面する人手不足問題を解決するためには、以下のような積極的かつ多角的なアプローチが必要です。
以降で、それぞれの対策について解説します。
人の手と目を最大限に活用する従来の物流作業は、担当者への負担が大きくなりがちでした。
しかし、物流システムを導入すれば輸送・保管・梱包・情報管理などの業務プロセスを一元的に管理して最適化できるため、業務効率の向上が期待できます。
たとえば、配送状況・在庫状況・荷物の現在地などが可視化され、物流業務をスピーディーかつ正確に管理することが可能になります。
また、手作業で行っていた業務をシステムに切り替えることで、時間の削減だけでなく業務の正確性も向上します。
在庫管理機能を活用すれば、リアルタイムで倉庫内の在庫数を確認できるため、適切な仕入れの数量を判断し、廃棄ロスを最小限に抑えられるようになります。
作業の質の標準化にもつながるため、人員配置の苦労も軽減され、担当者の負担も削減できるでしょう。
物流ロボットはピッキングや仕分け、搬送といった肉体労働的な作業を自動化できる機器です。
自動倉庫や物流ロボットの導入により、従来は人の手で対応していた荷物の運搬やピッキングなどの作業を自動化することで、倉庫内スタッフの人手不足を解消できます。
物流ロボットには、決められたルートを計画どおりに走行して搬送を助けるAGV(無人搬送車)や、周りにいる人や物を察知して走行ルートを決めるAMR(自律走行搬送ロボット)などがあり、担当者の負担軽減に大きく貢献します。はじめから自動倉庫を構築するには費用と労力がかかりますが、従来の倉庫をそのまま自動化することも可能です。
導入時に費用がかかるものの、人間の何倍ものスピードで業務を行えるため、少ない人員でも多くの荷物量に対応できるようになるはずです。
モーダルシフトとは、輸送の一部区間をトラックから鉄道や船舶に置き換えることです。
鉄道や船舶は自動車よりも一度に輸送できる荷物量が多く、少ない人員で大量の荷物を輸送できます。
配送ルートの一部区間をトラックではなく鉄道や船舶にすることで、ドライバー不足の解消やドライバーの長距離配送の抑止につながります。
また、鉄道や船舶を使った輸送は、トラックを使った輸送に比べて環境負荷が小さいことから、CO2排出量削減などの環境負荷低減効果も期待できます。労働人口が減少している今、ドライバー不足も問題となっているため、少ないドライバーで多くの荷物を運べる鉄道や船舶に注目が集まっています。
一方で、リスクとしては、ルート変更といった小回りがきかないことから、悪天候などの際に配送が滞るといったことが考えられます。
共同配送とは、複数の荷主企業が共同で配送を行う仕組みです。
たとえば「同じショッピングモールに納品する複数メーカーの商品を、同一のトラックで運ぶ」といったケースが考えられます。効率のよいルートを構築できれば、トラックの積載率を上げ、少ないトラックで効率よく荷物を運ぶことが可能になります。
同一エリアに運ぶ荷物をまとめることで、トラック1台あたりの積載量が上がって無駄がなくなり、少ないドライバーでも対応できるようなるため、ドライバー不足の解消やコスト削減につながるでしょう。
一方で、共同配送には企業間の協力やシステム共有が不可欠です。信頼できるパートナー企業を見つけなければ、共同配送は実現できません。
物流業界に対するネガティブなイメージを払拭するためには、労働環境の改善も重要です。
長時間労働や負荷の高い労働は従業員の疲弊を招き、生産性の低下や早期離職につながりかねません。
働き方改革を行い、こうした問題を積極的に改善していくことが重要です。
具体的な改善策として、まずはフレックス制や時短勤務、リモートワークなどの多様な働き方の導入が挙げられます。
育児や介護と両立しながら働きたい人や、ワークライフバランスを重視する人でも働きやすいよう、働き方を柔軟に選べる制度づくりを進めることが大切です。
また、社内託児所の設置も効果的です。子供を預ける保育所がないことがネックとなって就労を諦めざるを得ない女性は少なくありません。
そこで、社内託児所があれば育児をしながらでも働き続けたいと願う女性を採用できるでしょう。
採用対象を拡大すれば、それだけ人材を確保しやすくなります。
たとえば「体力が必要だから、力のありそうな人を採用したい」と最初から決め付けてしまうと、採用対象が狭くなり、人材不足なのに採用が進みません。
固定観念にとらわれず、女性や高齢者、外国人労働者など、これまで物流業界での活躍が限られていた層を積極的に採用する方向への転換が必要です。
国土交通省の調査によると、運輸業における女性の就労率は他業界に比べて大幅に低くなっていますが、女性が担当しやすい業務もたくさんあります。
システム化によって、力がなくても働くことができる環境を整えたり、分業化を進めて適材適所でさまざまな人が活躍できる仕事を作ったりするなど、人材確保のためにさらなる企業努力が求められます。
人材派遣や人材紹介サービスの活用も、人手不足解消に効果的な方法です。
人材派遣とは、派遣会社から人材を派遣してもらうサービスであり、人材紹介サービスとは、企業の希望に合った人材を紹介してもらうサービスです。
面接日程の連絡や合否連絡は派遣会社や紹介会社が行うため、採用担当者の工数を抑えられるというメリットがあります。
少人数から大人数、短期から長期まで柔軟に対応でき、繁忙期間や繁忙時間帯だけの人材手配も可能です。
また、求人広告を活用して採用活動を行うよりもリードタイムを短縮できるため、短期間で人手不足を解消しやすくなります。
候補者との細かな調整をすべて任せられる人材派遣・紹介サービスを利用することで、面接日程調整、ニーズのヒアリング、合否連絡といった面倒な作業を切り離せるため、採用担当者の負担が減り、より効率的に採用活動を進められます。
物流工程そのものを外部の専門業者にアウトソーシングすることも、人手不足解消につながる効果的な手段です。
アウトソーシングする方法としては、人員確保がままならない繁忙期や月末、大量の荷物の運搬が予想される期間だけスポット的に利用する方法と、継続的に物流業務を委託する方法があります。
物流アウトソーシングは、業務コストを削減できるだけでなく、高い技術と豊富な知識を持ったプロフェッショナルに業務を一任できる安心感もメリットと言えます。
「宅配件数の増加に対応できる優れた人材を雇用したいが、常時雇用しておく余裕はない」「さまざまな工夫をしても、今ひとつ業務の効率化が図れない」といった悩みを持つ企業にとって、特に有効な解決策となるでしょう。
物流専門企業は、物流についてのさまざまなノウハウを持っているため、人材不足の解消だけでなく物流品質の向上も見込めます。
ここまで解説したとおり、物流業界における人手不足は深刻な経営課題となっています。
その解決策として、物流アウトソーシングの活用が効果的です。株式会社ネオロジスティクスは、25年の実績と30社以上の物流事業をサポートしてきた経験から、単なる「代行」ではなく、顧客企業の物流部門として機能する高品質なサービスを提供しています。
同社の強みは、物流コストを「固定費」から「変動費」へ転換できる点にあります。
繁忙期や閑散期に合わせて人員やスペースを柔軟に調整し、請求は「使った分だけ」となるため、コストの最適化が可能です。
また、自社開発のWMS(倉庫管理システム)を活用した効率化や品質向上、バラピッキングなどの細かな作業対応、さらには海外調達から国内物流までをワンストップで提供するサービス体制も整っています。
2024年8月には和泉市に約6,200坪の新センターも開設し、BCP(事業継続計画)対策も万全です。
物流の課題を抱える企業にとって、ネオロジスティクスは頼れるパートナーとなるでしょう。
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政府は「2030年度に向けた政府の中長期計画」を策定し、物流業界の人手不足に対する抜本的な対策を進めています。
この計画では、将来技術として「自動物流道路の構築」(10年での実現を目指す)や「自動運航船の本格的な商用運航」(2030年頃の実現を目指す)といった革新的な取り組みが盛り込まれています。
さらに具体的な数値目標として、2019年度比で「荷待ち・荷役時間削減:年間125時間/人」「積載率向上:16%増加」「モーダルシフト:667億トンキロ」「再配達率:半減」が掲げられています。
これらの目標達成のためのロードマップでは、適正運賃収受や物流生産性向上のための法改正、デジタル技術を活用した物流効率化、多様な輸送モードの活用推進、高速道路の利便性向上、荷主・消費者の行動変容など、複合的なアプローチが計画されています。
これらの取り組みにより、2030年までに現在の人手不足問題が大幅に改善されることが期待されています。
参考:内閣府|2030年度に向けた政府の中長期計画