最低賃金上昇に伴う自社雇用の限界と物流業務を「外注化(変動費化)」すべき理由

最低賃金上昇に伴う自社雇用の限界と物流業務を「外注化(変動費化)」すべき理由

2026/10/06

最低賃金の引き上げや慢性的な人手不足により、自社での物流体制に限界を感じていませんか?

物流業務を外注化(変動費化)すべき理由は、採用・労務管理・環境整備リスクを外部委託できるからです。

最低賃金の引き上げが続く中、商品の入荷・保管からピッキング、梱包、発送までを自社で行うEC事業者にとって、人件費上昇が物流コストに与える影響は無視できない経営課題となっています。
加えて、物流現場では人手不足も続いており、自社雇用によって出荷体制を維持しようとすれば、時給だけでなく採用・教育・シフト管理などの負担も膨らみかねません。

こうした環境では、物流を「自社で抱える固定的なコスト」から、出荷量に応じて調整しやすい「変動費」へ転換する視点が重要です。

この記事では、最低賃金の引き上げが物流に及ぼす影響を整理し、自社雇用による物流の限界と、物流アウトソーシングによってコストを変動費化するメリットなどをご紹介いたします。

最低賃金の引き上げが物流現場にもたらす課題

EC事業者が物流体制を考える上で、今後ますます無視できなくなるのが最低賃金の引き上げです。
最低賃金法に基づき、毎年度、見直されている最低賃金。
近年は引き上げが続いています。

厚生労働省によると、2025年度に改定された地域別最低賃金の全国加重平均額は1,121円です。
さらに、2026年度(令和8年度)の地域別最低賃金は全47都道府県で改定額が出そろい、全国加重平均は1,177円となりました。
前年度から56円、率にして約5.0%の引き上げです。
引き上げ額は都道府県によって54円〜65円で、最高額は東京都の1,280円、最低額は1,085円となっています。
改定後の最低賃金は、2026年10月1日から12月2日にかけて、都道府県ごとに順次発効します。
自社の物流拠点がある地域の金額と発効日を、あらかじめ確認しておく必要があります。

最低賃金の引き上げは、当然ながら物流現場にも影響します。
問題は、最低賃金の引き上げと人手不足が同時に進んでいる状況です。
「最低賃金が上がるから人件費が増える」だけでなく、「人を確保するために最低賃金を上回る条件を提示する必要が生じる」という問題についても考える必要があるのです。

物流コストの内訳と「作業費」への直接的な影響

物流コストは単純に送料だけではなく、たとえば、次のようなコストが含まれます。

  • 倉庫や作業スペースの賃料
  • 物流スタッフの給与
  • 社会保険料などの法定福利費
  • 採用費
  • 教育費
  • 梱包資材費
  • 倉庫内の設備費
  • 光熱費
  • 倉庫管理システムなどのシステム費
  • 在庫管理やシフト管理を行う社員の人件費
  • 宅配便などの配送費

この中で、最低賃金の引き上げによる影響を直接受けやすいのが「作業費」です。
たとえば、1日に8時間働くスタッフを複数人配置している物流センターなら、時給が数十円上昇しただけでも、人数と稼働日数を掛け合わせれば年間の負担額は大きくなります。

さらに注意したいのが、既存スタッフ間の賃金バランスです。
最低賃金付近で新人を採用していた場合、最低賃金が上昇すると、新人だけでなく経験者の時給についても見直しが必要になる可能性があります。
長く勤務しているスタッフと新規採用者の時給差がほとんどなくなれば、経験者から不満が出ることは十分に考えられます。

したがって、最低賃金の上昇による物流への影響を試算する場合、「最低賃金対象者の時給上昇額×労働時間」だけを見るのでは不十分なのです。
物流部門全体の賃金体系や採用条件にどの程度の影響が波及するのかまで確認する必要があります。

「扶養内勤務の制限」による現場管理の複雑化

物流センターでは、パート・アルバイトなどの短時間労働者が重要な役割を担っているケースが少なくありません。
ここで人員配置を難しくする要因の一つが、いわゆる「年収の壁」を意識した就業調整です。
社会保険との関係では、いわゆる「106万円の壁」「130万円の壁」と呼ばれる収入基準があり、社会保険料負担による手取り額の変化を避ける目的で、労働者が就業時間を調整するケースが見られます。

もっとも、この制度は2026年10月に大きく変わりました。
2025年の年金制度改正法に基づき、2026年10月1日から、従来「106万円の壁」と呼ばれてきた「月額8.8万円以上」という賃金要件が撤廃されています。
最低賃金の上昇により、週20時間働けば賃金要件を自然に満たす水準になったことが背景にあります。
今後は、収入額ではなく「週の所定労働時間が20時間以上」「2か月を超える雇用の見込みがある」「学生ではない」「勤め先が企業規模要件を満たす」といった要件で社会保険の加入が判断されます。
これまで年収106万円に収まるよう就業調整をしていたスタッフも、勤務先が対象企業であれば、週20時間以上の勤務で社会保険の加入対象となります。
就業調整の目安は、「106万円」から事実上「週20時間」へ移ったといえます。
なお、企業規模要件(現在は厚生年金の被保険者数51人以上)も、2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上と段階的に引き下げられ、2035年10月に撤廃されます。
自社が現在どの規模に該当し、いつから適用対象になるのかを確認したうえで、「週20時間」を軸にシフトを設計する必要があります。

一方、健康保険の扶養に関する「130万円の壁」は、引き続き残っています。
ただし、2026年4月1日から、被扶養者認定の年間収入は、労働条件通知書や雇用契約書などの労働契約で定められた賃金から見込まれる額で判定されるようになりました。
そのため、繁忙期の残業などで一時的に収入が増えた場合でも、「年収130万円を少しでも超えれば必ず扶養から外れる」とは限りません。
労働契約上の見込み年収が130万円未満であれば、原則として扶養に入り続けられます。
手続きには、労働契約内容がわかる書類などが必要です。

最低賃金が上がれば、同じ時間だけ勤務していても年間給与額は増えます。
その結果、従業員自身が社会保険や扶養への影響を考え、労働時間について会社側へ相談する場面も考えられます。

物流の繁忙期に「もっと働いて欲しい」という企業側の希望と、「一定範囲に勤務時間を抑えたい」というスタッフ側の希望が一致しなければ、人員配置はさらに難しくなるでしょう。

人員増加に伴う「作業外コスト」の膨張

必要な総労働時間を確保するため、一人あたりの勤務時間を抑えて働くスタッフを増やす方法もあります。
しかし、人が増えれば作業時間以外のコストも増加します。
新しいスタッフを採用するなら、求人媒体への掲載、応募者との連絡、面接、入社手続き、現場教育などが必要です。

採用後も勤怠管理やシフト調整、作業指示、安全管理などが発生します。
この結果、たとえば、同じ「延べ80時間」の作業量だったとしても、少人数のスタッフで対応する場合と、多人数の短時間勤務スタッフで対応する場合では、管理の負担が変わってきます。

また、スタッフが増えれば、作業方法を統一するための教育も必要になります。
梱包方法や検品基準が担当者ごとに異なれば、誤出荷や品質低下につながりかねないからです。

こうしたコストは、物流費を計算する際に見落とされやすい部分です。
経営判断で重要なのは、「物流担当者の時給」だけでなく、人を雇用し、安定した物流体制を維持するために会社全体でどれだけの費用と時間を投入しているかを把握することだといえます。

 

人件費の上昇における自社雇用(固定費)の経営リスクとは?

EC事業では販売量が年間を通じて一定とは限りません。
セールやキャンペーン、季節商品、年末商戦などによって注文が集中することがあります。
反対に、売上が落ち着く時期もあるでしょう。

物流で難しいのは、この「波」に合わせた人員配置です。
繁忙期を基準として人を採用すると、閑散期には人員が余る可能性があります。
反対に、通常期の物量に合わせて最低限のスタッフだけを雇用していると、注文が急増した際に出荷が追いつかなくなる恐れがあります。

売上が減少しても、雇用しているスタッフの人件費や倉庫賃料などは直ちに同じ割合で減るわけではありません。
つまり自社物流は、一定部分が「固定費的」な性格を持ちやすいのです。

採用難の長期化と固定費化による収益圧迫

自社物流を維持するには、必要な人数を採用できることが前提になります。
しかし、現在の人手不足は一時的な問題として片付けにくくなっています。
「物流スタッフを採用できなければ、時給を上げれば良い」と考えることはできます。
しかし、時給を引き上げれば当然ながら物流コストも上昇します。
その物流費を商品価格や送料に転嫁できなければ、売上が増えても利益が伸びにくくなる可能性があります。

また、ECをはじめとする小売業では、物流部門だけで人材を必要としているわけではありません。
商品企画、仕入れ、ECサイト運営、広告、マーケティング、カスタマーサポートなど、事業を成長させるためのさまざまな仕事があります。
「限られた採用予算と人材を、物流作業にどこまで振り向けるべきなのか」
最低賃金の上昇局面では、この問いを経営レベルで検討する必要があります。

労務管理の増大化による本業への影響

「人員増加に伴う「作業外コスト」の膨張」でもお伝えしたように、物流を自社で運営する場合、負担となるのは直接的な人件費だけではありません。
スタッフを雇えば、求人、面接、雇用契約、教育、勤怠管理、シフト調整、給与計算、安全管理など、さまざまな管理業務が発生します。

特に中小規模のEC事業者では、物流専任の管理職を置かず、経営者や他部門の社員が物流管理を兼任していることもあるでしょう。
この状態で物流量が増えると、本来は商品企画や販売戦略を考えるべき人が、毎日の出荷状況や欠勤者への対応に時間を取られることがあります。
「物流作業を社内でできているから安い」と考えていても、経営者や社員の管理時間まで原価に含めると、実態は異なる可能性があります。

そこで一度、自社物流にかかっているコストを棚卸ししてみることをおすすめします。
給与だけではなく、採用費、教育費、社会保険料、管理者の工数、倉庫費、設備費、システム費などを合計し、年間の出荷件数で割ります。

たとえば、

自社物流の年間総コスト ÷ 年間出荷件数

というかたちで計算すれば、「1出荷あたり、実際にいくらかかっているのか」が見えやすくなります。

さらに、現在の最低賃金だけでなく、今後人件費が上昇した場合についても試算しておくと、内製を継続するか外注するかを判断しやすくなります。

【チェック】自社物流を見直すべきサイン

最低賃金の引き上げや人手不足の影響は、すべてのEC事業者に同じように表れるわけではありません。

一方で、次のような状況が増えている場合は、自社物流の運営方法やコストを一度見直すタイミングといえます。

  • 繁忙期のたびにパート・アルバイトや短期スタッフを採用している
  • 求人を出しても、希望する人数を確保しにくくなっている
  • 人材を確保するために、採用時給を継続的に引き上げている
  • 出荷量が少ない月でも、一定の人件費や倉庫費が発生している
  • 社員がシフト調整や欠勤対応、教育などに多くの時間を使っている
  • 出荷量が増えるたびに、人員や作業スペースの追加が必要になる
  • 自社物流に「1出荷あたりいくらかかっているのか」を把握できていない

特に注意したいのは、「物流スタッフの給与」だけを見て、自社物流のほうが安いと判断しているケースです。

実際には、採用や教育、勤怠・シフト管理、倉庫や設備の維持など、物流を自社で続けるためにはさまざまな費用と社内工数が発生しています。

上記に当てはまる項目がある場合は、「これまで自社で対応できていたから」という理由だけで内製を続けるのではなく、一度、物流にかかっているコスト全体を確認してみることが大切です。

 

解決策としての「物流外注(物量単価・変動費化)」

こうした物流人材をめぐる課題への選択肢となるのが、「物流アウトソーシング」です。
物流アウトソーシングとは、自社で行っている物流業務の一部または全部を専門の物流会社へ委託することをいいます。
「物流アウトソーシング」を利用することで、自社雇用に伴う固定費的な人件費を、変動費化することができます。

物量単価による完全変動費化のメリット

物流を変動費化する最大のメリットは、売上や出荷量と物流コストを連動させやすくなることです。
自社物流では、売上が半分になったからといって、翌月から倉庫面積や雇用人数を自動的に半分にできるわけではありません。

一方、出荷量や保管量などに応じた料金体系の物流アウトソーシングであれば、物量が少ない時期は費用を抑え、増えた時期には必要な物流機能を利用する設計がしやすくなります。

たとえば、繁忙期の最大出荷量を基準として自社スタッフを採用すると、通常期には余剰人員が生まれる可能性があります。
物流アウトソーシングを利用すれば、専門事業者の物流基盤を利用することで、自社の物量に合わせたコスト構造をつくりやすくなります。

最低賃金が上昇する時代だからこそ、「人を安く雇う方法」を探すのではなく、「自社で人を抱え続ける必要がある業務なのか」を見直すことが重要になるのです。

採用・労務管理・環境整備リスクの外部委託

物流アウトソーシングには、金額だけでは評価しにくいメリットもあります。
物流作業そのものを外部へ委託すれば、自社で物流スタッフを採用する必要性を抑えられます。
採用活動だけでなく、物流スタッフへの日常的な作業指示やシフト調整などの負担も軽減しやすくなります。

また、事業が成長して出荷量が増えた際、自社物流では新たな倉庫スペース、棚、作業台、機器、人員などが必要になることがあります。
物流を外注していれば、こうした環境整備についても物流会社の既存設備や運営体制を利用できる可能性があります。

 

まとめ

最低賃金の引き上げと人手不足が続く中、EC物流を自社雇用だけで維持・拡大するには、人件費だけでなく採用や教育、シフト・労務管理まで含めて考える必要があります。

大切なのは、外注が必ず安いと考えるのではなく、自社物流の総コストを「1出荷あたり」で可視化することです。
物流を自社で抱える必要性と外注した場合の費用を比較し、物量に応じた変動費化が適しているなら、物流アウトソーシングは有力な選択肢になるでしょう。

さらに、物流に割いていた人材や時間を商品開発、販売、マーケティングなどへ振り向けることで、限られた経営資源を本業の成長へ集中させやすくなります。

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